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東北(被災地)・シンガポール調査報告集会
2016/07/06

東北(被災地)・シンガポール調査報告集会 挨拶する大阪交運共闘会議の南議長(25日、自交会館で)

大きく隔たる「意見」
遠のく被災地の願い


 自交総連大阪地連も加盟する大阪交通運輸労働組合共闘会議(南修三議長)は、東日本大震災で甚大な被害を出した三陸地方(岩手県南部〜宮城県北部の沿岸)の公共交通復旧状況調査(昨年8月)と、シンガポール交通事情調査(昨年9月、主催=交通運輸政策研究会)の報告集会を6月25日に自交会館で開き、関西大学社会安全学部・西村弘教授が記念講演を行いました。

数年後、復興状況を確かめたい


 開会あいさつを行なった南議長は三陸調査を振り返り、「震災で壊滅的被害を受けたJR大船渡線・気仙沼線はBRT(バス高速輸送システム)への転換が正式に決まった。調査では復旧の方針をめぐって沿線各自治体で考え方が異なることがわかった。また数年後に調査を行い、復興状況を確かめたい」と話しました。
 記念講演を行なった関大・西村教授は「被災地では復興交付金によって道路の復旧は非常に早く、新設の道路も次々と造られている」「国は赤字の三陸鉄道には復旧費用をほぼ全額出したが、黒字企業のJR東日本には税金を出せないというスタンス」「JR山田線は沿線自治体が鉄道での復旧を望んだ結果、三陸鉄道に無償譲渡された。その結果、JR東日本から固定資産税が入ってこなくなり三陸鉄道への赤字補填も必要になり、先行きは苦しい」などと被災地の現状を紹介。「国はバス事業者への補助など地域交通の再生を場当たり的にやり始めたのはいいが期間限定。地域交通をどう支えていくのかという原理原則がない」と指摘し、「こういう原理原則のなさはこれまでの交通政策の反映かもしれない」との考えを示しました。

JR東日本と沿線自治体の隔たり

 三陸調査行動に参加した各産別の代表が次のとおり調査報告を行いました。
 「鉄道による復旧を切望する沿線自治体と、不採算路線を抱えたくないJR東日本とで意見の大きな隔たりがあったため復興調整会議が1年4か月も中断したとヒアリングで聞いた。一日も早く被災者の生活を元に戻すべき時期に会議さえままならない状況に陥っていたことに驚いた」「公共交通の再構築を営利目的の民間企業にまかせるのではなく、国の責任において被災地住民はもとより交通弱者等の移動を確保するための政策を整備しておく必要がある」(全港湾阪神支部・廣渡信次さん)
 「南三陸町ではコミュニティバスの運転者が不足していると聞いた。都市と地方で公共交通の状況が大きく違うのは国の政策の結果」「昨年成立した交通政策基本法では移動権が保障されていない、これが三陸で復旧復興が遅れている問題と密接に絡んでいる」「移動権をめぐって様々な問題が起こっている。京丹後市のライドシェア問題は交通事業者の撤退が背景にある。適正な移動権保障を求める運動が必要」(建交労大阪府本部・中村旨晶さん)
 「被災地では住宅や店舗は仮設のままで、生活基盤の復興は遅れている。巨大な防波堤や地盤かさ上げの工事は進んでいるが、はたして住民が主役の復興なのだろうか、進んでいるのは大企業・ゼネコンだけが儲かる国の復興事業だけに見える」「JRは震災を契機に全国の地方線をBRTに転換し、採算がとれなければBRTすらやめてしまう恐れがある。JRに公共交通機関として住民の足を守らせるたたかいを利用者・地域住民・自治体などと共同し発展させることが求められている」(国労大阪・高橋郁さん)
 「BRTの専用道は幅が狭いので運転者は大変ではないか、それと寒冷地ということもあり積雪時や強風時などは大丈夫か、運行はJRが地元バス会社に委託する形なので労働条件にも問題はないかと感じた」「被災地に限らず過疎地の公共交通を考える上で、新しい発想も必要」(自交総連大阪地連・松下書記次長)

シンガポールは
先進的なのか?


 報告のまとめを行なった庭和田事務局長(自交総連大阪地連書記長)はシンガポール調査について振り返り、「政府主導で強力な自家用車抑制、公共交通優先の政策がとられていた。鉄道・バスは共通のICカード決済で、乗り継いでも運賃が通算されるので極めて安い。運賃はコストではなく、国の政策で決められている」と紹介しました。
 さらに「トラックの荷台に乗って移動する褐色肌の労働者を高速道路で何回も見た。おそらくマレー人と思われるが、交通政策に関しては先進的でありながらその裏に存在する前近代的な人種間の序列を垣間見る思いがした」と話し、「国が違えば交通事情も政策も異なる。実際に行って見て聞かなければ何もわからない。今後も調査行動に取り組んでいきたい」と結びました。