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オピニオン OBの視点−高速バス重大事故 健康管理の問題で幕引きするな
2014/04/07

高速バス重大事故 健康管理の問題で幕引きするな


元・大阪地連バス部会事務局長 尾崎博明

 「高速乗合バス」で、また大きな事故が起きた。報道によると、3月3日午前5時10分頃、宮城交通の夜行高速バスが北陸自動車道・小矢部SAで駐車中の大型トラックに衝突。運転者と乗客1人が死亡、24人が重軽傷を負った。
 死亡した運転者は11日連続勤務。昨年10月、睡眠時無呼吸症候群の検査で経過観察とされていたが、産業医から運転に支障はないと判断されていた──などと報道されている。バスの事故は、いつもメデイアが大きく取り上げ、安全輸送の重要性と事故防止への厳しい指摘がされてきている。今回も長時間労働など働く環境の劣悪さを指摘しているが、そんな報道の中で「交替運転者の配置基準」に関わって気に掛ることがある。
 毎日新聞3月5日付けでは、「バス運転手の病気が原因で起きた重大事故が2012年に58件に上り、10年間で3倍以上に増えたことが国土交通省の調べで分かった」「(北陸道の事故では)運転手が何らかの理由で意識を失っていた可能性が指摘されている。同省はバス事業者に対し、運転手の労務管理や健康対策をより徹底するよう指導を強める」「国交省は昨年8月、運転手1人による乗車距離の上限を短縮し、それ以上には交代を義務付けるとともに、24時間内の運転も最長9時間とした」。また同日夕刊では「高速事故多発でバス運行新制度」との見出しで、「規制緩和で安値競争が急速に進み、運転手の過労運転などを背景に事故が相次いだ。(中略)国土交通省は、多くの格安高速バスを運行する『ツアーバス』の形態を見直し、昨年8月から、運行計画の事前届け出などが必要な『乗り合いバス』に一本化する新制度を導入した。運転手が乗車可能な距離の上限を670キロから昼間は500キロ、夜間は400キロに縮め、それ以上は複数の運転手が交代することを義務付けた」と書いている。
 新聞紙面には限りがあるから、と言えばそれまでだが、こうした記事を読んだ読者は、乗務距離が昼間は170キロ、夜間は270キロ短縮され、運転時間も上限が設けられたことで、“国交省は安全対策に十分努力している”と思うだろう。もう一つは「病気が原因」とあまりにも前面に強調されていて、問題が“運転者の健康管理”で幕引きされはしないか、という心配がある。
 報道された昼間500キロ、夜間400キロの規制は表向きで、簡単な条件を満たせば100キロも延長可能。さらに週2回はそれ以上を認める上に回送距離は別枠と言う抜け道だらけの内容。これでは実質無制限と言われても仕方のないものだ。もっと言えば、比較のもとの「670キロ」は「あずみ野観光バス事故」を受けて国交省が定めた「交替運転者の配置指針」の数値だが、これは実質的に無意味なワンマン乗務距離規制だった。当時の平均的な乗務距離は、総務省の「交替運転者の設定状況調査」では、調査27社平均で580キロ。バス連絡会の04年度調査では、参加8組合平均で545キロだった。
 さて、バスは2000年の規制緩和の後、事故は増えて高止まりしている。重大事故の再発防止には運転者の疾患発症・誘発の原因や背因を明らかにし、減らしていくこと。その意味で、過労死認定基準を超える「改善基準」の改正・法制化や、直接安全に関わる〈夜間のワンマン運行禁止〉〈乗務距離の適正化〉が緊急の課題。さらにもう一つは、運転者が睡魔と闘う時の身体に加わる重圧・負荷のメカニズムについて医学的調査が必要ではないだろうか。解明されているのであれば、それを元にした新しい行政闘争の要求の組み立てが必要ではないだろうか。
 抜け道だらけの距離規制と、それをそのまま流すマスコミ報道の下で、安全・安心なバス輸送とそれを現場で担保する労働条件をめざすたたかいが、これまで以上に求められている。