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労働者の声 置き去りにするな
2021/12/06
労働者と市民の権利を擁護するために法律家(弁護士や学者)と労働組合・市民団体が手を携えて活動する民主法律協会は11月26日、「解雇無効時の金銭救済制度に反対する声明」を発出。制度の導入ありきの議論を直ちに中止するよう求めています。
解雇無効時の金銭救済制度導入に反対する声明
2021年11月26日
民主法律協会 会長 萬井 隆令
1 厚生労働省は、2018年6月12日に、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」(座長は山川隆一東京大学教授。以下「法技術検討会」という。)を設置し、現在まで計15回開催して、いわゆる「解雇の金銭解決制度」について取りまとめの段階に至っているようである。
2 法技術検討会は、その趣旨・目的を「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点について議論して整理を行うこと」(「解雇無効時」とあるが「労働契約法19条に該当する雇止め時」を含むものとされている)として設置された。
厚労省の当初案は、使用者側からの申立権をも認めたものであったため、反対の声が大きく、それを取り下げて、労働者だけが申立てをできる案とした。しかし、現在でも、労働者が希望すれば和解によって金銭解決は可能であり、それとは別に新たに制度を作る必要はない。しかし、厚労省は、制度導入に固執し、「法技術的な論点」だけを検討するとして法技術検討会を設置し、実態は導入ありきの議論に終始している。
3 労働者は、解雇・雇止めされれば、生活の資である賃金が突如として得られなくなり、積み上げてきたキャリアが水泡に帰すことになる。
同制度は、裁判において解雇が違法・無効とされた場合になお、一定額の金銭の支払によって解雇を容認する。使用者に、裁判所が違法・無効と判断した解雇であっても、金銭さえ支払えば当該労働者を企業から排除できるという感覚を醸成するものであり、違法・不当な解雇・雇止めを助長することは必至である。違法・不当な解雇を抑制することを目的とする法規制とは真逆の効果を生じさせるものでしかない。
現在検討されている制度では労働者申立権に限定しているが、解雇の金銭解決が定着すれば、違法・不当な解雇・雇止めについて金銭で解決することが普通のことと考えられるようになり、使用者側にも申立権を認めるべきとの動きが拡大するおそれが大きい。
使用者側にも申立権が認められれば、金銭を支払えば組合員を職場から排除することが可能となる。それは労働者の団結と組合活動の権利を著しく阻害するもので、不当労働行為の救済として原職復帰を含めた原状回復が原則とされていることとも相容れない。
4 法技術検討会は「労働者保護の観点から、紛争解決に係る労働者の選択肢を増やすこと」を議論の基本的視点としているが、第4回検討会で労働者側弁護士らのヒアリングを行い、制度導入反対の厳しい意見が出されたにもかかわらず、その後も導入ありきの議論しかなされておらず、ヒアリング自体がアリバイ的になされたとのそしりを免れない。
労働者不在での議論が進められた結果、法技術検討会では、雇用の安定を求める労働者の声が置き去りにされてしまっている。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多数の労働者が雇用を奪われ、雇用に対する不安が大きい。解雇規制を緩和し、違法な解雇・雇止めを助長することが必至な制度の導入ではなく、雇用の安定の実現こそが望まれる。
5 民主法律協会は、労働者の権利を擁護することを目的とする団体として、上述の理由により「解雇の金銭解決制度」の導入に断固として反対するとともに、法技術検討会における制度の導入ありきの議論を直ちに中止するよう求める。