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オピニオン OBの視点−重大事故のリスク抱えたままの基準
2014/06/16

重大事故のリスク抱えたままの基準


元・大阪地連バス部会事務局長 尾崎博明

他人事ではないフェリー事故


 韓国客船セウォル号沈没事故から1か月あまり。報道によると、事故の要因として規定の3倍以上の過積載という法令違反が明らかになっている。識者の中からは「起こるべくして起きた事故」との指摘。懸念される事故はやがて起こる。法令違反・危険の積み重ねが事故を招く。現場海域では困難な捜索が続く中で、ずさんな管理体制と安全軽視に対する非難が高まり、大統領が謝罪、船長は不作為による殺人罪で起訴される事態になっている。
 一方、日本の高速バス業界では一昨年4月に発生した関越道ツアーバス事故を受け、国土交通省が高速ツアーバスと高速路線バスを「新高速乗合バス」に一本化。新しい「交替運転者の配置基準」(ワンマン運行距離規制)が昨年8月1日から施行されたが、いまのところ各社はそれを上回るツーマン運行の自主規制を行なっている。かつて高速ツアーバスでは8割を超える事業者が法令違反を犯していたが、法令を遵守し安全を第一に考える業界に生まれ変わったかのように見えるが……。
 大阪地連バス部会は当初から「当面の間は危険な夜行ワンマンを自重するだろう」との見方をしてきたが、その点では予想通りの展開である。
 高速ツアーバスでは安全の責任を負っていなかった旅行業者も、新制度のもとで事業を続けるには乗合旅客運送の許可が必要になった。旅行業者も安全の全責任を負うことになり、こちらもワンマン運行に踏み出しにくい事情がある。とはいえ、高コストのツーマン運行が守られている理由はそれだけでは説明がつかない。

骨抜きだらけのワンマン規制

 現在の「交替運転者の配置基準」で夜行ワンマンが可能なのは、貸切バス・高速乗合バスともに原則400キロまでとするが、運行前休息時間や運行中休憩時間などの条件を満たせば500キロまで可能だが、空車・回送距離は含まれない。貸切の場合、信州方面へのスキーバス運行がワンマンで可能だ。
 さらに高速乗合バスでは、「運行管理体制等に係る路線毎の審査により一運行の実車距離500キロを超える夜間ワンマン運行する路線を設定できる」とする特認制度があり、大阪→東京を超える運行が週2回まで可能となっている。
 このような「配置基準」のもとで原則距離とツーマン運行が守られている現状をどう見るべきなのか。「配置基準」は重大事故を受けて策定されたのだから、曲がりなりにも安全確保を強化する規制でなくてはならない。しかし実際の内容を見れば、深夜労働の特殊性や人体への影響からくる危険性を軽視しているのは明らか。
 ワンマン運行可能距離を実質延長し、夜行のワンマン化を進めるものだと言わざるをえない。現状を的確に言い表すならば(重大事故のリスクを抱えたままの基準)ではないだろうか。

ツーマン自主規制継続すべき

 バス部会は当初から夜行ツーマン義務化を要求してきたが、いまの実態は要求の正当性を証明し、行き過ぎた規制緩和への警鐘とも言うべき状態となっている。こうした中で安全への要求は山積しており、運行人員や乗務距離の規制強化を求めるたたかいは大きな課題だ。バス乗務員の労働条件改善をめざすたたかいは、これまでにも増して重要となっている。
 ずさんな安全管理のもとで起きた韓国フェリー事故は大統領の支持率を大きく押し下げ、国を挙げて安全意識の改革が行われようとしている。法令違反が多く、効果的な監督体制も整備されてない現状は、海の向こうの出来事とは思えない。いま各社が行なっているツーマン自主規制は安全運行の基本として、また業界の貴重な慣行として、ぜひ守ってほしい。これはバス利用者の一人としての願いだ。