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2・18スキーツアーバス事故
2007/03/15

安全・安心を軽視する業界風土に変貌


自交総連大阪地方連合会 執行委員長 権田正良

 事故発生

 2月18日午前5時25分頃、吹田市の中央環状線でスキー客らを乗せた「あずみ野観光バス」(長野県松川村)の大型観光バスが大阪モノレールの橋脚に激突し、16歳のアルバイト乗務員が死亡、運転手と乗客26人が重軽傷を負う事故が発生した。

 私たちは、毎年、運輸・労働行政に対し、観光バスの安全輸送の確立に向け、関係法令の遵守や安全破壊の根源となっているコスト割れ運賃横行の是正を要求してきた。また、法違反のアルバイト雇用が拡大、安全・安心を担保する雇用形態が破壊されている実態を指摘し、「いつ大事故が起こっても、おかしくない状況だ」と警告を発し、業界に対する行政指導を強く求めてきたが、力およばず重大事故が起こってしまった。

 運転手は21歳の2種免許取りたて
 運転していた小池運転手(21歳)は、吹田署の取り調べに対して「一瞬、うとうとし、分離帯にぶつかり事故に気がついた」と、居眠り運転だったことを認めている。小池運転手は2月に入って休みは1日しかなく、事故前も長野〜大阪間(片道500キロ)を1人で約12時間も夜間運転していたという。明らかに過労運転である。

 小池運転手は「あずみ野観光バス」社長の長男で、亡くなったアルバイト乗務員(16歳)は三男。次男も別のバスの乗務員として乗車。社長自身も運転手として別のバスを運転。母親である専務も別のバスを運転していた。

 小池運転手は、昨年7月に大型2種免許を最低年齢で取得し、初のスキーシーズンにワンマンでそれも深夜バスを運転していた。下表のようにスキーツアーバスの乗務は、ベテラン運転手でも緊張が連続する過酷な乗務である。

 観光バス会社は、通常21歳では採用しない。たとえ2種免許を持ち、5〜6年以上大型トラックなどを運転していたという経験があっても慎重に採用し、採用しても社内研修を経たのち乗務させるのである。21歳の運転手と聞かされて唖然とした。
 今回のように免許取りたての人に、長距離の大型バス運転を、それも経験の乏しい若者に任せるのは異例だ。そして16才の弟との同乗運行も極めて異常としか言いようがない。二人で心細い気持ちで運行していたことが察しられ、気の毒に思えてならない。

 当日「あずみ野観光バス」は4台で梯団運行していた。夜行運行では、運転手を1台につき2人乗務(MM運行)させることが業界の常識である。しかし同社は計6人しか配置していなかった。

 事故の原因は、過重労働による疲れや寝不足などの影響が大きいと思われる。問題は、道路運送法、運輸規則、労働基準法、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準・「告示」などの関係法令を守らない事業者の体質、遵法精神の欠如にあったと思われる.

 「あずみ野観光バス」は、昨年6月に長野労働局が監査した際、労働時間や拘束時間が基準を超える違反や休憩時間等を法律どおりにとっていなかったことが判明し、「改善・指導」されている.また、長野運輸支局も事故の起こる、2週間前の2月5日に監査を行い法律違反の改善勧告を行っているが法違反が是正されないままだった。行政がカを発揮し改善していれば、今回の事故を防げた可能性もあっただけに悔やまれてならない。

 事故の背景にあるもの 「規制緩和と旅行業者の横暴」
 貸切バス事業は、00年2月の「改正」道路運送法で規制緩和され、事業は免許制から許可制になり、業者数は一気に規制緩和前の1・6倍に急増、5年間で約1400業者が新規参入してきた.運賃も許可制から事前届出制になり、競争が激化。その結果、安会意識が希薄な小規模業者が多く現われた。一方、営業収入は、95年の5900億円から04年度には24%も減って4500億円となっている。国土交通省による安全面などの社会的規制や事後チェック機能は形骸化し実態として法違反が野放し状態となっている。この道路運送法改悪には、自民・公明・民主などが賛成した.悪法を成立させた政党の責任は重い。

 貸切バス業界は、不況の影響で乗客数が大幅に減少するなか、規制緩和で事業者やバス台数が一気に増加したことで、パイの奪い合いが激化.ダンピング競争が加熱した結果、運賃は規制緩和前の半額程度に落ち込んでいる。その結果、バス会社は生き残るために、運転手の労働条件や安全コストを切り下げ、運転手の賃金はバブル崩壊と規制緩和実施後、200万円もダウンしている。

 利用者は運行する貸切バス会社を選べない
 今回の事故の背景には、旅行業者が弱い立場に置かれているバス業者に対して、低運賃を押しつける実態がある。この件で国交省総合政策局旅行振興課は、旅行業者の運賃設定等が、バス業者の長時間労働や過密な運行行程につながっているとして、昨年6月30日にJTBなど、全ての旅行業者に対して「ツアーバスに係わる募集型企画旅行の適正化について」とする「通達」を出した。

 「通達」は、旅行業者が貸切契約(運賃)に於て、バス業者に長時間労働を強いる、あるいは最高速度規制を違反する走行を強いるなどの行為は、安全が脅かされるのみならず、道路運送法、労働基準法、道路交通法等の関係法令への違反行為の教唆、幇助となる可能性があることから絶対してはならないと、異例の警告を発した。しかし現実は、この「通達」が生かされていない.

 ツアーバスの問題点は、実績のある旅行業者がツアー客を募集する.お客さんが旅行業者を信頼していても、実際、運行するのは法律を守れない、安全コストを削るバス会社だということを認識する必要がある。要するに利用者は旅行業者は選べるが、運行する貸切バス会社は選べないと言うことである。

 運賃・料金は、バス業者が勝手に決めて営業できない。運賃・料金額について、大阪府下では近畿運輸局が定めた公示運賃を守ることが義務づけられている.しかし、バス業者には旅行業者から公示運賃違反の低額運賃を押しつけられる状態が続いている。例えば、大阪〜飛弾高山・1泊の場合、運輸局が公示している下限運賃で計算すると約25万円となるが、バス業者が旅行業者から受け取る額は14万円でしかない。これは明らかに公示運賃違反である。しかし、この条件を断ると、次の仕事を契約できる保証はない。

 このように安全を軽視し、儲け本位に走る旅行業者の存在が背景にある。なかには公示運賃の3分1の運賃で走っているバス業者も存在する。他方、車歴10年以上の中古車が増加しており、走行中の火災も多く発生している。結局、このような危険な業界にしたのは、観光バス事業者、旅行業者、そして法律違反を放置している行政であり、過当競争によるルール破壊、安全輸送軽視の業界風土にした政府の規制緩和がある。

 貸切バス輸送は安全・安心が第一
 私たち自交総連大阪地連バス部会は、2月21日に近畿運輸局と国土交通省や厚生労働省に対して、事故防止のために『全バス業者に法律遵守するよう文書で指導すること』『全旅行業者に安全輸送に向けた指導と協力要請すること』『バス事業者への特別監査を早急に実施すること』などの項目で「緊急申し入れ」を行った。申し入れに基づき、3月6日に国交省交渉。同9日には近畿運輸局交渉を行い「一刻も早く対応する」「労働局と合同監査を4月から実施する」との回答を引き出した。

 2月27日には、大阪城とUSJで運転手を対象に「実態アンケート調査」を実施.ほとんどの運転手が「バス業者は法律を守っていない」「旅行業者からの安い運賃の押しつけがある」「疲れていつも睡魔に襲われ、居眠り運転する」などと答え、安全・安心の危機をいっそう強く肌身に感じる調査結果となった。

 私たちは今後も、今回の事故を教訓として、二度とこのような事故を起こさないために「安全・安心・快適」の観光バス輸送の確立めざし奮闘し続けていく決意である。(以上)

志賀高原スキーツァーバス(大型・運転手2人)3往復の実態
           行 程 表
1日目(月)1クール
 往路 18:00自宅発―19:00会社出庫―新大阪―京都駅―高速道路)
2日目(火) ―5:00赤倉など10カ所降車―9:00〜10:00志賀高原着
 復路 17:00志賀高原発―(高速道路)―
3日目(水)2クール
 ―5:00京都駅―大阪駅他3カ所―会社入庫・洗車−9:00自宅
 往路 18:00自宅発 以下1日目と同じ
4日目(木) 2日目に同じ
 復路
5日目(金)3クール
 往路 18:00自宅発 以下1日目と同じ
6日目(土)
 2日目に同じ
 復路 17:00志賀高原発―(高速道路)―
7日目(日)
 5:00京都駅―7:00大阪駅―8:00会社入庫・洗車―9:00自宅…休暇へ
               (資料=大阪地連バス部会の調べ)