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走行中に意識失うバス運転者続出
2018/06/15

走行中に意識失うバス運転者続出

過重労働放置するな


 6月3日、岐阜バス(岐阜市)の観光バス運転者(54)が乗務走行中に意識を失い、乗客がバスを緊急停車させましたが3人が負傷する事故が起こりました。報道によると、運転者は「意識不明の重体で、富山県警高速隊などは、走行中にくも膜下出血を発症したとみて調べている。この乗務員は12日連続勤務であった」(毎日新聞)といいます。

 現場は富山県南砺(なんと)市の東海北陸道で、バスの乗客は14人。岐阜県関市を出発して石川県の和倉温泉に向かっていました。14時40分ごろ、バスがセンターラインのポールを倒しながら対向車線にはみ出し、異常走行に気づいた乗客が運転者に声をかけても無反応だったことから、別の2人の乗客とハンドルやブレーキを操作して路肩に停車させました。ブレーキを操作した2人は「大型の運転免許を持っていたということで、バスの運転に何らかの知識があった」(富山・チューリップテレビ)といいます。大惨事に至らなかったのは幸いでした。

健康起因事故が激増

 バス運転者の急性疾患による事故件数は、最新のデータから過去10年をみると2006年〜13年までは30〜50件台で推移していたのが14年には139件に跳ね上がり、16年には161件と10年間で5倍近くまで増えています。この傾向から思い浮かぶのは、近年の外国人観光客増加にともなう仕事量増加です。
 2016年1月の軽井沢スキーバス転落事故を受けて国土交通省が翌年6〜7月、労働組合があるバス事業所の運転者約7000人に行なったアンケートでは、約2割が1日13時間以上拘束され、4人に1人が睡眠時間5時間未満と回答しています。労働組合がない事業所ではもっと過酷であろうことは想像に難(かた)くありません。
 国交省やバス業界は運転者の急性疾患対策として、自動ブレーキや、乗客が操作する非常ブレーキなどハード面での対策を進めていますが対症療法でしかなく、根本的な対策として脳・心臓疾患に影響を及ぼす過重労働を厳しく取り締まることが求められます。

実効性なき「改善基準」

 2014年3月に北陸道小矢部川サービスエリアで宮城交通の夜行バス運転者が意識を失い停車中のトラックに衝突,運転者と乗客1人が死亡した事故では、運転者は11日連続勤務でした。
 北陸道事故の調査資料によると宮城交通では事故前3年間で乗務員の緊急搬送が4件確認され、うち3件が事故前年に発生しており、事故当時にかけて過重労働が常態化していたことが読み取れます。
 ところが、北陸道事故を含む5件では、「自動車運転者の労働時間等の改善の基準」(厚労省告示)での重大な違反は確認されていません。「改善基準」が過重労働の歯止めになっていないのは明らかです。現行の「改善基準」を遵守しても過労死ラインを上回る1か月115時間の残業が可能です。しかも連続勤務日数の規定がなく「休日労働は2週間に1回が限度」としているだけなので13日連続勤務も可能です。
 事故から3年半後の17年9月には系列のミヤコーバスの運転者が東北道を走行中に意識を失い、乗客の手で停車。運転者は死亡が確認されています。「改善基準」の実効性を上げる改正と法制化は急務です。

過重労働にお墨付き

 厚労省の最新の資料によると2016年度の過労死認定件数は「自動車運転従事者」が全体の34.2%を占め、職種別(中分類)では最多です。
 しかし、安倍政権が成立を狙う「働き方改革」一括法案・残業時間の上限規制は、自動車運転業務については法施行後5年の猶予期間を設けている上に、適用される上限は過労死ラインに匹敵する年960時間(月平均80時間)以内、しかも休日労働が含まれないため、年間総拘束時間に置き換えると現行の「改善基準」と変わらない水準となっています。
 「働き方改革」は現在の過重労働にお墨付きを与えるものでしかなく、「過労死をなくしていく」という安倍首相の言葉は口先だけ。これ程「人の命」を軽んじる政権は過去にありません。