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東京・千代田区で重大事故、通行人・利用者・運転者が死傷
2021/09/27

責任は業界全体にあり


 またしてもタクシー運転者の意識喪失による重大事故が起きてしまいました。9月11日、東京・千代田区で、くも膜下出血を起こしたとみられる運転者男性(64)のタクシーが横断中の自転車や歩道にいた人をはね、1人が死亡、タクシー利用者を含む4人が重軽傷を負い、運転者も翌日に死亡しました。

 報道によると、運転者は乗務歴25年以上の個人タクシー乗務員でした。
 17日配信の日刊ゲンダイDIGITALは、運転者について「通常は、午後3時ごろから午前2時ごろまで車を走らせていた。母親によると、持病はなく、これまで大きな事故を起こしたこともない」、また19日配信の読売新聞オンラインは「東京旅客個人タクシー協会によると、(略)事故当日は普段は仕事を休んでいた土曜日で、協会関係者は『コロナ禍で客が減り、休日返上で仕事に出ていたのではないか』と語った」と報じています。
 昨年12月には、北九州市戸畑区で、心疾患で意識を失った運転者と利用者1人が死亡。今年1月には東京・渋谷区で運転者が脳卒中を起こし、歩行者を次々にはねて1人が死亡、5人が重軽傷を負い、運転者は意識が戻らないまま3月に死亡しています。
 前出の読売の記事では「健康管理の強化が課題」「背景には運転手の高齢化がある」と指摘しています。国土交通省は事業者に向けて、運転者の疾病の早期発見に努め、運転者に生活習慣改善を促すよう求めていますが、それだけでいいのでしょうか。くも膜下出血は過労死の原因として多い疾病です。

ストレスが心身に影響
労働環境の改善が急務


 1999年、学術誌「労働科学」に掲載された論文※1では、夜勤タクシー運転者1名(43歳男性、降圧剤服用)を対象に、乗務中の走行や営業収入など状況観測と併せて、携帯型心電計や携帯型自動血圧計を使って心室期外収縮(VPC)※2を計測。
 その結果として、「連続夜勤で睡眠不足が推定される下で、営業運転がVPC出現の誘因となり、」「勤務日の運転後半での低額の営収とVPC数やいらいら感の増加の重なりが見られた」「客の獲得、特に自らの目標金額を達成する運転後半期の努力がVPC出現頻度の増加をもたらしたことが示唆された」とまとめています。
 密室内での接客、走っても走っても周りは空車の同業者だらけ──乗務中のストレス、「いらいら感」は乗務した人間にしかわかりません。「改善すべき生活習慣」にしてもストレスと無縁ではないはずです。
 ストレスの背景にある労働環境、賃金制度や労働条件について、運転者の意見を参考にして改善することが急務です。今回事故を起こしたのは個人事業者ですが、運転者一人に責任をかぶせたまま現状を放置していては、市民にとっての「安心・安全なタクシー」が失われることになります。
※1 「夜勤タクシー運転手のVPC出現増加に果たす職務ストレスの役割」(前原直樹、佐々木司、 李卿、澤貢、守和子、花岡知之、渡辺明彦)
※2 心室期外収縮(VPC)=心室からの異常興奮により生じる不整脈。VPCの出現数や重症度が増すにつれ心血管系の死亡率も増す。