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最低賃金の大幅引き上げと全国一律化を求める意見書
2022/08/08

1、最低賃金に抵触するタクシー労働者が激増


 タクシー労働者の労働条件はもともと劣悪なうえ、コロナ危機による影響も大きく、大阪で働くタクシー労働者の2021年の平均年収は約251万円(=別掲)で、産業計男性労働者の567万円より316万円も低くなっています(厚労省『賃金構造基本統計調査』による)。
 関西圏のタクシー労働者の平均賃金(同年)を見ても、京都189万円、兵庫206万円、滋賀234万円、奈良263万円、和歌山271万円(同調査)で、その地方の地域別最低賃金に限りなく近づいたことから最低賃金法違反も多数発生しています。
 こうした実態を鑑みても、最低賃金が引き上げられることは、多くのタクシー労働者にとって直接の賃金アップにつながるたいへん重要で切実な問題です。異常ともいえるタクシー労働者の低賃金状態を改善するため、最低賃金を大幅に引き上げ、地方間格差を縮めることがつよく求められます。


2、最低賃金の引き上げはタクシー経営の障害とはならない


 (1)低すぎる最低賃金こそが経営努力を怠らせ、健全な事業発展の阻害に

 毎年の最低賃金改定の審議にあたって、タクシーの経営者団体は、厳しい経営環境のなかで企業の支払い能力を考慮して、引き上げは慎重にしてほしい旨の意見を提出しています。しかし、最低賃金を低く留め置くことは、むしろタクシー事業の健全な発展、将来展望を失わせることにつながります。
 タクシーの経営環境が悪化したのは、2002年2月1日に実施されたタクシー事業の規制緩和が大きな要因です。需給調整規制を廃止し、運賃規制を緩和したために、タクシー台数が急増し、低運賃競争が発生しました。しかし、需要は拡大せず、激しい過当競争状態となり、1台当たりの営業収入は急減しました。
 タクシー労働者の賃金は、歩合給を採用しているところが少なくないために、営業収入が減れば、賃金も自動的に減少します。もし固定給であったならば、簡単に賃下げはできないので、人件費率が上昇して会社の収益を圧迫するところですが、歩合給であるがゆえに、営業収入の低下に合わせて人件費も低下して、一定の収益が維持できるということになりました。このためタクシーにおいては、企業の営業収入が悪化したときでも通常の企業経営者ならば当然行う経営努力である生産調整すら行わす、逆に増車競争に邁進するということになりました。
 この過当競争の最後の歯止めとなったのが最低賃金です。営業収入が低下して、そこから計算される歩合給賃金が最低賃金に抵触するようになったとき、法律を守る意思があるならば、それ以上賃金を下げることはできません。
 そうなったときにはじめて、経営者からも規制緩和見直しの声が起こり、タクシーにおける規制緩和は「市場の失敗」を招いたとして、2009年10月1日にタクシー適正化・活性化特措法が制定されて、規制緩和を見直し、車両数の協調的減車、運賃規制の厳格化が行われました。減車によって1台当たりの生産性の向上をはかったのです。このことは、多くのタクシー経営者は、賃金が最低賃金に抵触するようになるまでは、歩合給の特性に依拠して、必要な経営努力をせず、生産性向上に本気でとりくまなかったということを示しています。
 最低賃金が低すぎることは、このような生産性向上という当然の経営努力を怠らせることになります。逆に、最低賃金を引き上げることは、その最低賃金を支払うために、生産性向上のための企業努力を経営者に促すことになります。それは、実際にタクシーの減車が実現したように、実行可能な努力です。そのような当然の経営努力をせずに、支払い能力がないので最低賃金を上げるのは困るというのは、身勝手な主張です。

 (2)コロナ危機だからこそ最低賃金を引き上げ生活の基盤を守るべき

 タクシー規制緩和の見直し以降、タクシー労働者の賃金はわずかながら回復傾向にありました。しかし、2020年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大で、タクシー事業は甚大な影響を受け、労働者の賃金は激減、2021年の年収は2019年から162万円も激減しています。
 これだけの賃金低下になると最低賃金に抵触する労働者が続発します。労働者からの請求がないのをいいことに最低賃金法違反を続けている経営者も一部にいますが、多くの経営者は、多数の労働者に最低賃金の補填をしなければならず、それでは経営が維持できないので、計画休業をして需給調整を行い、国からの雇用調整助成金を受給してなんとか事業を継続し、雇用を維持している状況です。
 このような非常時に最低賃金を引き上げるのは困ると経営者団体は主張しまが、それでは労働者は生活できず、事業の維持さえ困難になります。
 現にコロナ禍の2年で大阪では約2400人の労働者がタクシー業界から退出しています。また、現在の最低賃金の水準では、最低賃金が支払われても労働者は生活を維持することができず、2020年以降、タクシー運転者の離職が全国でも急速にすすんでいます。
 最低賃金を大幅に引き上げ、最低賃金で生活が維持できるようにしなければ、タクシーを運転する労働者がいなくなり、地域公共交通としてのタクシー事業が維持できなくなります。

 (3) 国・地方自治体からの適切な助成の必要性
 実際に最低賃金を引き上げた場合、現在、最低賃金近似の賃金で労働者を雇用している経営者は、負担が増えて、経営上の影響が出ることは明らかです。ここに対して何らかの手立てが必要で、最低賃金の引き上げは、中小・零細企業に対する国や地方自治体の助成の充実とセットで行うこととし、経営者の負担を軽減すべきです。コロナ危機で疲弊したタクシー事業への特別の手当も含めて、今年度は特段の対応が必要です。
 最低賃金の引き上げによって、実際に労働者の賃金を引き上げた使用者に対しては、新たに増加した費用を補填する補助金や社会保険料の使用者負担分の軽減など十分な助成策を講じて、最低賃金引き上げの負担を軽減して、経営と雇用の維持をはかれるようにするべきです。


3、最低賃金の大幅引き上げでコロナ危機からの経済再生を


 低すぎる最低賃金は、タクシーに象徴的にみられるように、安い人件費で経営が維持できてしまうために、経営者の生産性向上に対する意欲を低下させます。
 また、低すぎる最低賃金は、コロナ危機のなかで、労働者の最低限の生活の維持を危うくしています。
 大幅な最低賃金の引き上げと地方間格差の是正によって、コロナ危機から脱却し、経済再生をはかり、労働者の賃金の上昇が生産性の向上を促し、消費も拡大して、日本経済全体が成長し、大阪をはじめ関西経済の好循環が実現するように、大阪地方最低賃金審議会においては積極的な最低賃金引き上げの審議が行われるよう求めるものです。