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2014年05月の記事
オピニオン OBの視点−バス運転者 社会的責任に見合う労働条件を
2014/05/07
バス運転者 社会的責任に見合う労働条件を
元・大阪地連バス部会事務局長 尾崎博明
前橋地裁は3月5日、関越道バス事故(2012年4月)を起こした河野被告に対し「眠気を感じながら運転を続けた」として「懲役9年6か月・罰金200万円」とする判決を言い渡した。法定刑の上限に近い量刑であり、事故と運転者の責任の重さを改めて認識させるものとなった。
いまバス運転者の待遇は慢性的な長時間労働と低賃金、そして不規則勤務など劣悪なものとなっている。交通戦争といわれる環境で働く運転者の〈待遇〉と〈社会的責任の重さ〉との大きなギャップをどう受け止め今後の運動に生かすべきか、今回の判決が新たに問題を提起したといえる。
夜間2人乗務は不文律
河野被告は、雇用の形などで一般の運転者とは若干の違いはあるものの運行の形や労働の中身は同じ。こうした事故はいつでもどこでも誰でも起こりうるもので、再発防止にむけた取り組みはバス労働者全体の問題だ。
さて、今回の判決のポイントは「眠気を感じていながら運転を継続したこと」だ。しかし交替運転者がいなければ仮眠をとれないし、高速道路上では眠気を感じても停車できない。何よりも決められた行程にそって時間通りに走らなければならないから、無理な運行とわかっていても限界ギリギリまで頑張らざるをえない。だからこそ安全のために夜間運行の二人乗務が確立されてきたのだ。長いバスの歴史の中で夜間2人乗務制についての労使間協定は皆無だったといっていい。協定を結ぶまでもなく安全のための常識として不文律となっていたからである。
バスの事故は2000年の規制緩和後、増えて高止まりの状態。そうしたなかで国交省は昨年8月、事実上の距離延長と夜間のワンマン運行を認める「交替運転者の配置基準」を実施した。「あずみ野」「関越道」そして「東北道」バス事故を教訓に改定されたはずの乗務距離規制は、大阪から東京、信州、南は九州までがワンマン運行のエリアになるように設定され、まさに業界寄りと言われても仕方のないものとなった。総務省・行政評価局の見直し勧告や、自交バス部会からの現状にあった要求・提案も無視された形である。規制緩和によるバスのだぶつきと、要員不足の監査体制下では高速乗合もスキーバスも、そう遠くない時期にワンマンへと移行していくだろう。
安全にはコストが必要
自交バス部会は、こうした流れにストップをかけ、安心・安全なバス輸送とそのための労働条件をめざして〈1日500キロ制限〉、〈夜間2人制義務化〉などを柱とした要求を掲げてたたかっている。いつもたたかいの先頭に立つバス部会だが、これらの要求を実現するには組織の枠を超えた、とてつもないエネルギーが必要…。その核となるのは、「懲役9年6か月・罰金200万円」という社会的制裁と運転者の待遇とのギャップを矛盾として受け止め、理論づけて共通認識にしていけるかどうかにかかっているのではないだろうか。
〈安全・安心なバス輸送〉と〈運転者の社会的責任に見合う待遇〉を求めるたたかいは一つのもの。規制緩和後、運転者の労働条件を犠牲に旅行会社の安売り競争が繰り広げられた。労働条件の引き下げ・安売りは、乗客にとっても会社にとっても、産業全体にとってもプラスにはならないと確信している。事故が増え重い判決が下されたいまこそ、バス部会は“安全にはコストがかかる”ということを大いに宣伝し、自信を持って運転者にふさわしい待遇をめざしてたたかってほしい。