HOME  <  バストピックス

バストピックス

更新情報・ニュース

過去のバストピックスのトップへ

月別バックナンバー

2013年07月の記事

過労運転防止の実効性欠く「改善基準」一刻も早く改正・法制化を
2013/07/26

運転者・利用者の命を守れ


 7月上旬、3件たて続けに発生した大型バスの事故。関東運輸局は4日未明に東北道で事故を起こしたバス会社2社の監査を同日に実施、国土交通省は5日に日本バス協会と高速ツアーバス連絡協議会へ運転者の健康管理の徹底を求める通達を出しましたが、それで収まる問題ではないはずです。

健康管理だけの問題か


 7月4日に宮城県蔵王町の東北道で亡くなった運転者の死因は虚血性心疾患でした。その3日前に三重県亀山市の東名阪道で亡くなった運転者の死因である急性大動脈解離(別名・解離性大動脈瘤)も虚血性心疾患に含まれます。虚血性心疾患は厚生労働省が定める過労死認定基準の対象疾病です。
 過労死認定基準とは労働死亡災害を過労死として労災認定する際の基準です。時間外労働(週40時間を超える労働)が《月あたりおおむね45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる》とし、時間外労働が《発症前1か月間におおむね100時間》または《発症前2〜6か月間にわたって月あたりおおむね80時間》を超える場合は「業務と発症との関連性が強い」としています。
 東名阪道で亡くなった運転者について、「6月は24日、262時間の勤務で、標準的な勤務体制」(中日新聞)との報道がありますが、262÷(30÷7)で週あたりの労働時間を計算すると約61時間、つまり週あたりの時間外労働が21時間となり、21×(30÷7)で6月の時間外労働を計算すると90時間弱となります。あくまでも試算であり、正確な数字を出すには乗務シフトなどを織り込んで精査する必要がありますが、今回の事故を運転者の健康管理の問題に矮小化するのは許されません。

過労招く「改善基準」

 自動車運転者の労働時間規制として、いわゆる「改善基準」告示があります。1989年に労働省(当時)が出したもので、事業者は遵守が求められ、違反すれば労基署から是正が指導されます。02年からは国土交通省告示ともなっています。
 この「改善基準」で定められているバス運転者の拘束時間は、《4週間を平均して週65時間》。さらに貸切バスや高速バスでは《労使協定で52週のうち16週までは週71.5時間まで延長可能》となっています。1日あたりの拘束時間も基本は13時間以内、最大16時間(15時間超えは1週2回まで)となっており、休憩時間を差し引いても時間外労働が過労死認定基準を超える可能性が十分にある内容になっています。
 休息期間(勤務と次の勤務の間の時間)についても「改善基準」では「8時間以上」としていますが、これでは通勤時間や食事など生活時間を引けば睡眠時間は実質5時間程度で、休息になりません。
 しかも告示は法律ではなく罰則がないために、この不十分な「改善基準」すら遵守されていないのが実態です。総務省が貸切バス運転者を対象に行なったアンケート調査(09年5月)では全体の58.1%が1日あたりの拘束時間が16時間を「超えたことがある」と回答。33.2%が1日あたりの休息期間が8時間に「達していない」と回答しています。そして同アンケートではヒヤリ・ハット体験の「ある」運転者が95.6%、その59.7%が原因を「休日や休息の不足による過労運転」としています。

行政は腰を上げろ

 今回、虚血性心疾患で亡くなった2人の運転者が過労死であったかどうかはまだ判明していませんが(22日現在)、過労死を疑われるような労働条件がバス業界にまん延しているのは事実です。一刻も早く「改善基準」を改正・法制化して過労運転防止の実効性を上げるべきですが、行政は重い腰を上げようとしません。
 国交省は昨年の関越道事故を受け「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」を策定、事業者に対する「安全性チェックの強化」と「安全優先経営の徹底」、「ビジネス環境の適正化・改善」を図るとしていますが、「改善基準」を放置したままでは絵に描いた餅です。

バスの事故続発 30、40代の運転者が乗務中意識不明に
2013/07/16

改善基準改正一刻も早く


 7月に入り大型バスの事故が相次いでいます。1日に三重県亀山市の東名阪道で観光バスが、4日未明には宮城県蔵王町の東北道で夜行高速バス、栃木県那須塩原市の同道で夜行ツアーバス。いずれも乗務員が死亡していますが、亀山市と蔵王町の事故では乗務員が運転中に急病で意識を失っています。

メディアの追及甘く


 亀山市の事故ではバスが左に寄っていることに2列目に座っていた利用者が気づき、乗務員が意識を失っていたため、あわててハンドルを握ってバスの体勢を立て直したといいます。3人がかりで車を止め、乗務員は病院に運ばれましたが急性大動脈解離で死亡。44歳でした。
 蔵王町の事故ではバスが左側のガードレールに衝突した後、中央分離帯などにぶつかり、衝突に気づいた利用者が乗務員に声をかけましたが反応がなかったためブレーキを踏んで止めたといいます。乗務員は心肺停止状態で病院に搬送され、死亡が確認されました。死因は心臓に血液が十分に行き渡らなくなる虚血性心疾患。37歳での早すぎる死です。
 乗務員2人の過労死が疑われますが、いまのところメディアはそこまで踏み込んでは報道していません。中日新聞によると、東名阪道事故で死亡した乗務員は6月は24日、262時間の勤務だったといいますが、1日あたり約11時間勤務していたことになります。

腰を上げない行政

 厚生労働省は過労死認定基準を「時間外労働が死亡直前の1か月に100時間以上、直前の2〜6か月に平均80時間以上」としています。しかし、自動車運転者の労働時間規制である「改善基準告示」は、これを遵守しても1か月115時間以上の時間外労働を容認する内容になっています。自交総連は「改善基準告示」の改正を長年要請してきましたが、厚労省は腰を上げようとしません。3月5日の自交本部・中央行動では、組合側の要請に対して「現在の基準を遵守させることに力を入れたい。国交省のツアーバスの過労運転防止検討会にも参加しており、そこで乗務時間等の見直し等がされれば、参考にしたい」との回答にとどまりました。
 国交省は「関越道高速ツアーバス事故を受け、(中略)平成25・26年度の2年間にわたり、(中略)事故の再発防止と、事故により大きく揺らいだ高速バス及び貸切バスへの信頼回復を図る」として4月に「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」を発表したばかりですが、この中に労働時間に関する施策は見当たりません。過労運転防止策のメインはワンマン運行の上限距離規制ですが、回送距離を除外して昼間最大600キロという骨抜き規制です。

健康要因の事故急増

 国土交通省の資料によると、脳梗塞や心筋梗塞などバス乗務員の健康要因による重大事故は、規制緩和直後・01年の5件から11年には58件に激増。バス・タクシー運転者の過労死認定率は全雇用者平均の5.8倍(2010年)にもなります。
 運転中の身体トラブルは運転者自身だけでなく利用者、事故に巻き込まれる人々の生命も危機に晒されます。今回の事故で乗務員以外に死者が出なかったのは偶然でしかありません。一刻も早く「改善基準告示」改正に着手すべきです。