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2010年11月の記事
第9回役員セミナー 浜林正夫氏(一橋大学名誉教授)講演 連載B
2010/11/15
労働組合?何のため、誰のため
─労働組合の社会的責任を考える─
連載B 国際比較から学ぶ
一部の貧困は全体にとって危険
日本は団結権について制限が多すぎます。つまり、労働組合が認められない職種が多すぎるんです。
軍や警察の団結権は認められなくてもしょうがないというのが国際基準ですが、消防についても認めないのはおかしい、と日本にはクレームがつけられています。日本はそれに対して「消防は警察の一部分だ」と返答しています。警察と消防は違うと思うんですけどね。イギリスでは消防署員がストライキをやったことがあります。その時にあらかじめ新聞広告を出して「何月何日にストライキをやりますから火事を出さないでください」という(笑)、笑い話があるんですけれども、消防が団結権を持っているというのは国際的にも普通のことです。
そのほかにも日本では例外になっている職種がいっぱいあるんです。皆さん考えてください。例えば裁判官、それから刑務所職員、これらは日本では団結権が不当に制限されているとして国際的には非難されています。
ILOの条約を歪曲
ILO(国際労働機関)は1944年の「フィラデルフィア宣言」の中で「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険だ」と言っています。どういうことかというとつまり貧しい人をほったらかしにしておくと豊かな人の生活も危なくなりますよ≠ニいう意味です。だから、労働条件の改善はみんなでやりましょう、ということです。
それからILOは1999年に「ディーセント・ワーク(人間らしい働き方)」という目標を提起しています。その内容は、まず生活が保障されるということです。そして、社会保障よりもっと広く社会保護が受けられるということです。それから労働者の権利保障。さらにジェンダー平等、つまり男女の平等がディーセント・ワークの中身とされています。
同じ年に日本は派遣労働を原則自由化しました。その時に政府はILOの条約に批准したことを理由にしたのですが、とんでもないこじつけです。条約はヨーロッパの移民労働者を念頭に、「加盟国は、民間職業仲介事業所が人種や宗教などの差別なしに労働者を取り扱うことを確保する」と定めていて、均等待遇をはじめとする労働者保護のための適切な措置をとることを求めています。日本はそれに賛成しながら「均等待遇」や「労働者保護」は全部無視してしまって、「職業仲介」の部分だけが本旨であるかのようにねじ曲げてしまったんですね。
「一に雇用」は口だけ
ILOやEU(欧州連合)が特に問題にしているのは労働者の雇用です。雇用の確保が一番重要です。菅首相は「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と言いましたね。あれこそまさにILOの精神だと思いますが、残念ながら何もしていません。口で言っただけです。
人を採用するということも、もちろん雇用ですけれども、EUが非常に重視しているのは「勝手に首切りをするな」ということです。EUは「集団解雇指令」を1975年に出しました。この指令は整理解雇、つまり本人が何かミスをやってクビになるという場合ではなくて、会社の都合で大量に解雇をする場合について、簡単に首切りしてはいけませんよという指令です。
日本でもかつて最高裁が「解雇の四要件」ということを言ったことがあります。これは裁判所が言ったことで別に強制力はないんですけれども心がけというかね。それは、解雇がやむを得ない状況なのかどうか、それから解雇を避けるためにあらゆる手を尽くしたのかどうか、それから解雇する人の選び方は妥当なのだろうか、例えば組合の委員長を切っちゃったなんてのは妥当とは言えないということですね。それから事前協議の手続は充分か。
これが最高裁の四要件という有名なものでありますけれども、まあ残念ながらこれは日本ではちゃんと守られていません。強制力がないから守られていないような気がしますが、ヨーロッパではそのことを非常に重視しています。
(つづく)
大阪労連・府労組連が労働者決起集会を共催
2010/11/15
ノボリや横断幕を手に集まった公務・民間のなかま(11月9日、大阪府庁前で)
橋下知事・財界が狙う官民賃下げ競争
公務員バッシングで連帯を分断
一時金カット継続
橋下知事の就任以来、「財政再建プログラム」に基づいて大幅な人件費削減を行なってきた大阪府当局は、9月に「財政構造改革プラン」の一環としてこれまでの給与水準を大幅に低下させる「給与制度改革」を府労組連に提案。この間の給与・一時金のカットも引き続き3年間継続するとしています。
さらに10月には、大阪府人事委員会が一時金を3・95月(0・2月削減)とするよう勧告しました。勧告は民間の特別給の支給状況が3・93月であることを削減の根拠にしています。人事委の給与勧告制度は、地方公務員の労働基本権が制限され(争議行為等の禁止・労働協約締結権の制限)、民間のように労使の交渉で給与を決めることができないことからその代償措置として官民較差を調査したうえで行われるものですが、結果的に民間企業の賃下げに追随し、橋下知事・財界が狙う官民の賃下げ競争と共同歩調をとるものとなっています。
集会当日の11月9日、団体交渉に臨んだ府労組連は、「当局の仮収支試算では今年度について240億円の黒字を見込んでいる。一時金カット(約30億円)は中止できるではないか」と迫りましたが、当局は「向こう3年間の財政状況がどうなるかわからない。府民サービスも削ったままになっている状況で、カットは中止できない」と回答しました。
公務でも格差拡大
集会で、交渉の経過や橋下知事の狙いなどについて報告を行なった府労組連・平井書記長は、「府民サービスと我々の人件費を競合させながら、交互に削っていくのが橋下知事の戦略だ」と指摘。府に対しては一時金カットの中止要求と同時に、黒字額はこれまで削ってきた福祉や教育などの府民サービスの回復に使うよう強く求めていかなければならない、と強調しました。
続けて平井氏は、教育の現場で正規教職員の採用が抑制される一方で非常勤講師や1年任用の臨時事務職員が増えている実態、福祉や介護・医療の現場では民間委託の拡大によって、派遣や請負の労働者が無権利・低賃金で府民サービスを担っている実態を紹介。「年度末になれば次の採用が行われるのかどうか、不安で夜も眠れないという話が寄せられた」と述べ、不安定雇用の一掃を求めるたたかいと同時に、喫緊の課題として非正規と正規の均等待遇を実現していく必要性を訴えました。
さらに公務員制度改革について「公務員バッシングを通じて府民と職員・教職員との分断を図っていく」「知事と同じ考え方を持つ職員を作っていく」ことが狙いにある、との認識を示した平井氏は、「民間では大企業の経営者・役員が億単位の報酬を得る一方で、中間管理職以下の労働者は低賃金の状況に置かれ、格差が拡大している。橋下知事はまさしく民間と同じように一部の幹部職員を高給取りにしながらそれ以外の労働者を低賃金に押し込めようとしている」と指摘し、「民間労働者と一体となって格差解消、貧困撲滅を追求しなければならない」と力を込めました。
「TPPへの参加決定に反対」全労連が談話
2010/11/15
国民無視の政治パフォーマンスは無謀
全労連は11月2日、「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加決定に反対する」と題する談話を小田川事務局長名で発表し、民主党・菅政権に対して大企業・財界の要望よりも労働者、国民の声に耳を傾けるよう求めました。なお、政府は9日に「関係国との協議を開始」する基本方針を閣議決定しました。
TPPは、自由貿易協定(FTA)の要素(物品およびサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野(人の移動や投資、政府調達など)も含めた包括的な「貿易障壁」撤廃を、多国間で協定しようとするものです。新興輸出国との競争で優位に立ちたい大企業・財界は政府に参加を求めています。
しかし、TPPに参加することにより、国内の農林業などの第1次産業への影響はもとより、経済危機の原因ともなった「ハゲタカファンド」の投資行動や、移民労働問題など、労働者にも直接的で広範な影響が生ずることが懸念されます。
同談話は、「外需依存の一方で脆弱な内需≠ニいうゆがんだ日本経済の現状をさらに深刻化させかねない。TPPの負の側面、国内経済への悪影響への検討も対応もなしの政治的パフォーマンスは無謀と言わざるを得ない」と指摘しています。
第9回役員セミナー 浜林正夫氏(一橋大学名誉教授)講演 連載A
2010/11/05
労働組合?何のため、誰のため
─労働組合の社会的責任を考える─
連載A 続・歴史の教訓から学ぶ
一致した要求で大きな団結を
さきほど“職種別組合のほうが良い”というニュアンスで話しましたが、問題点もあります。昔、イギリスで職種別組合をつくったのは熟練工でした。労働者の中では比較的良い条件にいる人たちが組合をつくるから、不熟練・低賃金の労働者が相手にされないという問題です。
日本の労働運動も正規労働者だけを組織して、非正規や派遣の人まで手が回らないという状況があると思いますけれども、それと似たような状況がイギリスでもあったんですね。
「労働貴族」と呼ばれるような高給取りが組合をつくって、低賃金労働者はほったらかしという状況が問題になり始めたのは19世紀の末ですけれども、その頃になって「これはおかしい」「低賃金の人こそ労働組合を必要としているのではないか」という空気が出てきます。そのきっかけをつくったのは、ロンドンでマッチを作っていた女工さんです。
彼女らは当時の労働貴族からまったく相手にされない、不熟練の労働者でした。ましてや「女に何ができるんだ」と。当時の感覚はまさに女性差別ですね。ところがそれがきっかけになって、不熟練の労働者の中でたたかいが拡がります。
そこで職種別組合のほうも考えまして、労働者全体を組織するという発想が出てきたんですけれども、職種別ではなしに誰でも入れる労働組合をつくりました。これを「一般労組」といいます。一般労組は現代の日本にも多くあります。
非正規労働者も包み込む組織
しかし、正規労働者の組織の外に一般労組をつくってもなかなか力になりません。と言えばちょっと問題になるかもしれませんが、いまの日本の一般労組や青年ユニオンに対して悪口を言っているわけではありません(笑)。イギリスの話だと思って聴いてください。
そこで、労働組合が低賃金の人たちも包み込むような形の組織になっていきます。例えば、“『製鉄労働者および一般』組合”という具合に組織変えしていきました。そして職種別組合は熟練工以外の人も含めた「産業別組合」になります。例えば製鉄業なら製鉄業の中で熟練も不熟練もいる組織になっていきました。それがヨーロッパで産業別組織というものが拡がっていった流れだと思います。
要するに、たたかっているなかまの連帯の中で組合がつくられていった、という話です。ただ、そのたたかいはもちろん大事なんですけれども、たたかいの結果を手放さないためにはやっぱり法律にする必要があると思いますね。だからそういう意味では、労働法を改正していくたたかいは非常に重要だと思っています。
労働組合が治安維持法に賛成
1925年、「日本労働総同盟」は普通選挙権の実現を主張していたのですが、治安維持法成立を狙う政府はちゃっかりと普通選挙権を認めたんです。で、総同盟は治安維持法に賛成してしまいます。
1940年に総同盟の労使協調路線に反対して除名された23の組合は「日本労働組合評議会」を結成し、2つのナショナルセンターが並立します。総同盟は弾圧を受けず、やがて「産業報国会」という国策に沿ったものに変質していきますけれども、評議会は激しくたたかい続けたので弾圧されて壊滅状態になります。大戦の末期には労働組合は事実上ゼロになりました。
労働組合に“イデオロギー的な対立を持ち込まない”というのは歴史の教訓のひとつだと思います。
ただ、“治安維持法に賛成するような組合とは一緒にやっていけない”というのは“イデオロギー的な対立を持ち込んだ”と言えなくもないのですが、これはもはやイデオロギー問題ではなくて、“自由や人権を無視する労働組合とは一緒にやれない”ということですね。
ここで“イデオロギー的な対立”というのは言わば政治路線の問題です。一致した要求で協力していくということは必要ではないでしょうか。労働者の大きな団結をつくりだしていくということをぜひ、考えていただきたいと思います。 (つづく)
府労組連学習決起集会
2010/11/05
「府民・府職員犠牲の財政構造改革プラン撤回めざしがんばろう」と拳を突き上げるなかま(10月21日)
競争原理で府民との連帯を分断する「公務員制度改革」
大阪府関連労働組合連合会(府労組連)は10月21日、橋下府政による給与・任用制度の大改悪や府民サービスの切り捨てに対する怒りを結集し、攻撃をはね返す決意を固め合う場として「学習決起集会」を大阪市天王寺区内で開き、600人が参加しました。
橋下府政は9月16日、府労組連に対し「公務員制度改革」と称する給与・任用制度の大改悪を提案しました。集会の主催者あいさつで府労組連・辻委員長が示した学校事務職員(54歳・主担主事)の例では、給与制度の改悪、月給保障の廃止、さらには時限カットという3重苦の結果、その削減総額は年額で122万円、月額で10万円超という強烈なものです。
辻氏は「当局が言う“頑張った人が報われるシステム”とは、人を蹴落として成果を上げよという競争原理、企業の論理にほかならない。府民のために奉仕する公務員・教職員を律するのは助け合いと連帯の人間的関係だ」「人件費削減など目先の効果を狙った策では逆に経済が悪化して、企業経営や自治体財政のためにもならない。すべての労働者の最低賃金の抜本的な引き上げと結んで、公務員賃金削減反対の声を堂々と主張していく必要がある」と指摘しました。
「私たちは府民のくらし、命、健康を守るため一生懸命に努力し、親身になって働いている。なのに今回の給与制度改悪案は何なのか。私たちが何をしたというのか」
リレートークで府の福祉・公衆衛生を取り巻く状況を報告した府職労・健康福祉支部の前田書記長が怒りを込めて声を張りあげると会場からは「そうだ!」の声と拍手が起こりました。
元凶はムダな大型公共事業
「赤字の原因はこれまでムダな大型公共事業を重ねてきた当局自身にある。私たちは大企業のために働いているのではない。私たちの賃金カットが、次に府民へ犠牲を強いるもとになるのは絶対に許せない」と訴えました。
大阪地連は、官の賃金が下がれば民の賃金も下がるという、負のサイクルを改善するため府労組連と共にたたかいを進めています。